Youtube 松本幸四郎 (9代目)他
Youtube 市川團十郎 (12代目)他
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うしろ黒幕、すべて鎌倉稲瀬川の体、波の音、佃に
て幕あく。と、雨車波の音にて、花道より○△□◎等の
大勢蓑笠にて鉦太鼓をたゝき、迷児を呼びたがら出て来り、
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大勢: | 迷児の迷児の三太郎やあい。(ト舞台へ来り) |
○: | 又ばらばらやって来たが、大降りにならねばよい。 |
△: | 初瀬寺(はせでら)から稲瀬川、この界隈(かいわい)にいぬからは、 |
□: | 朝比奈の切通しを越え、六浦(むつら)の方へ行ったか知らぬ。 |
◎: | それじゃあこれから一(ひと)のしに、瀬戸橋までやッつけよう。 |
○: | 先へ行ったら知らぬこと、後(あと)なら彼処(あすこ)でがんばれば、 |
△: | 知れるは必定、一方路、 |
□: | 路のぬからぬそのうちに、 |
○: | こっちもぬからず、ちっとも早く、 |
○: | いずれもござれ。 |
皆々: | 迷児やあい迷児やあい。
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ト鉦をたゝきながら上手へはいる。本釣鐘(ほんつりがね)を打ち込み、
端唄稽古噺子(はうたけいこばやし)になり、花道より弁天小僧、忠信利平、赤星十三、南郷力丸、日本駄右衛門ら五人男、いずれも染衣裳一本差し、
下駄がけにて、しら浪と廻し書にしたる番傘をさして出て来り、花道にて、
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弁天: | 雪の下から山越しに、まずこゝまでは逃げのびたが、 |
忠信: | 行く先つまる春の夜の、鐘も七つか六浦川、 |
十三: | 夜明けぬうちに飛石の洲崎(すさき)をはなれ、船に乗り、 |
南郷: | 故郷を後に三浦から岬の沖を乗りまわさば、 |
駄右: | 陸(おか)とちがって波の上、人目にかゝる気遣いなし、 |
弁天: | しかし六浦の川端まで、乗っきる畷(なわて)が遠州灘、 |
忠信: | 油断のならぬ山風に、追風(おいて)か追手の早風(はやて)に遭えば、 |
十三: | 櫓擢(ろかい)にあらぬ一腰の、その梶柄(かじつか)の折れるまで、 |
南郷: | 腕前見せて切り散らし、かなわぬ時は命綱、 |
駄右: | 錠(いかり)を切って五人とも、帆綱の繩に、 |
五人: | かゝろうかい。
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ト唄になり平舞台へおりる。このとき下手より捕手四人
迷児捜しの体にて鉦太鼓たゝき「迷児やあい迷児やあい」
と呼びながら来り、五人に行違い思入れあって入れ替わ
り、太鼓を持ちし捕手土手の上へ上がり、太鼓を早めて
打つ、これにて皆々笠を脱ぎ四天のなりになり、上下よ
りばらばらと取り巻き、
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○: | 盗賊の張本日本駄右衛門、それに従う四人の者、やること
ならぬ、 |
皆々: | うごくな。
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トこれにて皆々思入れあって、
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駄右: | さては、五人がこの所へ来るをまちぶせ、 |
五人: | なしたるか。 |
△: | 迷児を捜す態に見せ、幾組となく手わけをなし、網を張っ
て待っていたのだ。 |
駄右: | むゝ、かく露顕の上は、卑怯未練に逃げはせぬ、一人々々
に名を名乗り、繩にかゝって、 |
五人: | 刑罰受けん。
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トこれにて舞台へ五人居並び、上下を捕手取り巻く、
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○: | けなげな一言、して真先に、 |
皆々: | 進みしは。
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駄右: |
問われて名乗るもおこがましいが、生まれは遠州浜松在、十四の年から親に放れ、
身の生業(なりわい)も白浪の沖を越えたる夜働き、盗みはすれど非道はせず、
人に情を掛川から金谷をかけて宿々で、義賊と噂高札(たかふだ)に
廻る配附の盥越し、危ねえその身の境界(きょうがい)も最早四十に人間の
定めはわずか五十年、六十余州に隠れのねえ賊徒の首領日本駄右衛門。 |
弁天: |
さてその次は江の島の岩本院の児(ちご)あがり、ふだん着慣れし振袖から
髷も島田に由井ケ浜、打ち込む浪にしっぽりと女に化けた美人局、
油断のならぬ小娘も小袋坂に身の破れ、悪い浮名も竜の口
土の牢へも二度三度、だんだん越える鳥居数、八幡様の氏子にて
鎌倉無宿と肩書も島に育ってその名さえ、
弁天小僧菊之助。 |
忠信: |
続いて次に控えしは月の武蔵の江戸そだち、幼児(がき)の折から手癖が悪く、
抜参(ぬけまい)りからぐれ出して旅をかせぎに西国を廻って首尾も吉野山、
まぶな仕事も大峰に足をとめたる奈良の京(きょう)、碁打と言って寺々や
豪家へ入り込み盗んだる金が御嶽の罪科(つみとが)は、蹴抜(けぬけ)の塔の二重三重、
重なる悪事に高飛なし、後を隠せし判官(ほうがん)の
御名前(おなめえ)騙(がた)りの忠信利平。 |
十三: |
またその次に列(つら)なるは、以前は武家の中小姓(ちゅうごしょう)、故主(こしゅう)のために切取りも、
鈍き刃の腰越や砥上(とがみ)ケ原に身の錆を、磨ぎなおしても抜き兼ねる、
盗み心の深翠り、柳の都(みやこ)谷(やつ)七郷、花水橋の切取りから、
今牛若と名も高く、忍ぶ姿も人の目に月影ケ谷(やつ)神輿ケ嶽、
今日ぞ命の明け方に消ゆる間近き星月夜、
その名も赤星十三郎。 |
南郷: |
扨(さて)どんじりに控えしは、潮風荒き小ゆるぎの磯馴(そなれ)の松の曲りなり、
人となったる浜そだち、仁義の道も白川の夜船へ乗り込む船盗人(ふなぬすびと)、
波にきらめく稲妻の白刃に脅す人殺し、背負って立たれぬ罪科は、
その身に重き虎ケ石、悪事千里というからはどうで終いは木の空と
覚悟は予(かね)て鴫立沢(しぎたつざわ)、しかし哀れは身に知らぬ
念仏嫌えな南郷力丸。
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駄右: | 五つ連れ立つ雁金の、五人男にかたどりて、 |
弁天: | 案に相違の顔触は、誰(たれ)白浪の五人連れ、 |
忠信: | その名もとどろく雷鳴(かみなり)の、音に響きし我々は、 |
十三: | 千人あまりのその中で、極印(こくいん)うった頭分、 |
南郷: | 太えか布袋か盗人(どろぼう)の、腹は大きい胆玉、 |
駄右: | ならば手柄に、 |
五人: | からめて見ろ。 |
捕手: | なにをこしゃくな。
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トどんどんになり、捕手皆々打ってかゝるを、上下へ別
れ傘にてあしらい、立ち廻って一時に投げ退け、傘を開
いてキッと見得。これにて後ろの黒幕を切っておとし、
向う稲瀬川、聖天山船宿を見たる灯入りの遠見。にぎや
かなる鳴物になり、五人傘にて捕物のような花々しき立
ち廻りあって鳴物替わり、皆々一刀を抜き土手を使いて
烈しき立ち廻りよろしくあって、結局上下へ追い込み、
ほっと思入れ。本釣鐘、上手に赤星十三、忠信利平、下
手に南郷力丸、弁天小憎、土手の真中に駄右衛門い並び
て、
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駄右: | 今日は一緒に身の終わりと、覚悟はせしが一日でも脱れら
れなば逃げ延びん。 |
南郷: | いかさま命が物種なれば、 |
忠信: | 五人連れにて一先ずこの地を、 |
駄右: | いや、大勢づれでは人目に立つ。忠信、赤星両人は、これ
よりすぐに中仙道、南郷、弁天両人は道を違(ちが)えて東海道、片時
も早く落ち延びよ。 |
四人: | してまた、頭は、 |
駄右: | この身はやっぱり鎌倉のうちに隠れて、後より出立、 |
南郷: | そんならこれより右左、 |
十三: | わかれわかれに旅路へ出かけ、 |
弁天: | 道中筋を一働き、 |
忠信: | 五月(さつき)を待って京都にて、 |
駄右: | ふたゝび出逢う、 |
五人: | 五人男。(トこのとき以前の取手二人出で) |
捕手: | 捕った。
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ト駄右衛門にかゝるを、立ち廻って引きつける。
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四人: | またもや、捕手(とりて)、 |
駄右: | いや、こゝ構わずと、 |
四人: | そんなら頭、 |
駄右: | 片時も早く、 |
四人: | 合点だ。
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ト波の音、佃になり、南郷、弁天は花道へ、十三、忠信
は東の仮花道(あゆみ)へ、駄右衛門は捕手(とりて)の一人を踏まえ、一人
を捻じ上げ後を見送る。四人は花道をはいる。これをい
っぱいにきざみ、よろしく
ひょうし幕
遠州郷土資料
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